Adrenaline Addiction

東京湾のLTアジから小笠原の遠征ジギングまで。

デカいエビには火を通せ。オニテナガエビ釣り。 タイ釣行記2.5

 オニテナガエビ(学名:Macrobrachium rosenbergi)はインドから東南アジア、そしてオーストラリア北部に棲息する淡水のエビの一種で、サイズが最大30㎝を超える世界で最も大きな淡水エビの一種である。火を通しても身が縮みにくく食用に適しているため、東南アジアはもちろん、中国、台湾でも養殖が行われている。

 

 さて、今回のタイ釣行でささやかながら熱い戦いを繰り広げることになる好敵手がこのエビであった。

 

 2日間連続でハードな釣りを完遂した我々は3日目を休息日とし、昼まで惰眠を貪ったのち、釣りは一旦もういいや、とバンコク市街に夜まで滞在することにした。そこで、バンコクにもあるというエビの釣り堀に行くことにした。(???)(結局、どんなに疲れていても何らかの釣りはしたいのだ。)

 

 バンコクには多くのエビ釣り堀があり、難易度やエビのサイズ、料金が釣り堀によって異なる。本来ならばサクッと行ってサクッと釣るのが「観光」なのだろうが、今回の旅行はあくまでも釣りが目的。難易度高め、サイズ大きめの釣り堀を選んでいくことにした。そこで向かったのがBTSクルトンブリー駅近くのエビ釣り堀兼レストラン「Charoen Nakhon 16 Shrimp Pond」。竿、餌、ビク込みで1時間100バーツ(350円くらい)。市ヶ谷フィッシングセンター(市ヶ谷駅から見えるアレ)の3分の1の値段でエビを釣ることができる。

 

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内部はこんな感じ。結構空いてた。



 当地が難しいと言われる理由はすぐに分かった。エビ釣り堀は基本的にはクリアウォーターで、水底にエビの姿を視認することができるところが専らだと事前情報では聞いていた。一方、ここは池の水が濁っており、エビの姿が見えないのだ。イメージしやすく例えると、見えないドブからザリガニを釣る難しさだ。しかも、ここには池の各地から湧き出ている酸素注入用のエアーレーション以外に障害物がない。つまり、ほぼイコールコンディションで、エビの着き場がわからないまま釣りをする必要がある。

 

 こうしたコンディションで確実に結果を残さないといけないとき、我々がまずすべきことは「常連」の発見だ。長い時間(半日~1日)をかけてパターンを発見するのが釣りの「常道」ではあるが、今回、そうした方法で本命をキャッチするにはあまりにも時間がない。我々は受付のあんちゃんが怪訝そうにこちらに目を向けるのをガン無視して常連っぽい人を探すことに最大限の注意を払った。

 

 いや、払う前に見つけた。

 

 親子で来てるわりにレンタルの道具を使っていない「angler」たちがそこにいた。彼らは池のど真ん中に陣取り、自前のエビ釣り道具を使っているのは彼らしかいなかった。10歳そこらの子供と40歳くらいの父親とみられる男は、スローに時間が流れるこの釣り堀で、言葉も交わさず、絶えず腕を緊張させながらウキに鋭い眼光を浴びせている。その姿は、子供のころに参加したヘラブナ釣り大会の上位入賞者のそれと酷似しており、バンコクのエビ釣り堀に今は無き栄町の亀の子池を幻視した。後ろから回り込んでびくの中身を覗き見ると「1時間2匹」という前情報からすると驚異的な量のエビがキープされている。それを見た我々は受付でそそくさと準備を済ませ、彼らの目前に陣取ることにした。

 

 さて、エビ釣りの仕掛けはかなり単純なものである。1.8mほどの述べ竿に1.5号ほどのナイロン、ウキ、オモリときて最後に針が来る。しかし流石は手長エビの親玉、日本の手長エビ釣りとは比較にならない太さと大きさの針がついている。エサは鳥のレバーを集魚液に漬けたものを使用する。

 

 日本でのエビ釣りの経験からすると、彼らは障害物に付くが、前述したようにここには障害物は存在しない。とするならば、まず狙うべきはエビが障害物以外で最も付きやすいであろう場所、壁際であろう。事実、目前に陣取るエビ師も壁際をちょくちょく攻めている。しかし15分ほど攻めてみるも沈黙。やむを得ず、壁から50㎝程度の距離にあるエアーレーションの泡が出ている近辺にエサを流し込む。しばし待つと、ウキが「ピッ」と動いた。エビは魚のようにエサをひったくる食べ方をせず、餌をハサミで持つか軽く咥え、安全な場所に持って行ってから本格的な摂餌行動をとる。したがって早合わせは禁物。ウキが沈んで、沈みっぱなしのままステイするくらいまで待ってからやおらアワセをくれてやる。しかしバラシ。水中のエビとフッキングの向きが違うと掛からないのがエビ釣りであるとは理解しているものの、数少ないアタリをモノにできないのは悔しい。しかし、そこからアタリはぱったりと、丸30分消滅した。

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虚無

 

 釣り開始から早くも1時間が経とうとしていた。ここまで2人で釣りあげたのはゼロどこをどう攻めても釣れないことに気づきつつあった私は、twitter開いたスマホを片手にビールを吸引するマシーンと化していた。twitterでエロ画像に「いいね」をしまくっていると目の端に映るウキが滲んで見えた。意識するや否や反射的にアワせた。

 

 エビの引きは思ったよりも魚っぽい。しかし、魚よりもバイブっぽいので魚ではないことはなんとなくわかる。エビは危険から逃げようとするとき、いわゆるしっぽを何度も屈伸させて逃げる。その細かい振動がなぜかバイブっぽいのだ。房総の「密漁にならないところ」で釣ったイセエビも、江戸川の手長エビも、バンコクのオニテナガエビもそこは同じ。

ただ、イセエビよりは引かないし、手長エビよりかは引く。そんなもんだ。

 

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この後挟まれた(挟まれにいった)。結構痛かった。

 

 ぶっちゃけ、日本の手長エビのボディをそのまま等倍したらこんな感じになるなといった姿だ。額角(エビの角みたいなとこ)は日本の手長エビを等倍したイメージよりも立派だが、頭胸部(エビの頭)と身のサイズのバランスはまさに手長エビ。しかし、ハサミの大きさが際立つ。しかもよく見ると、第2胸脚(ハサミ)にはタラバガニのような棘が数多くあり、うっかり握ったりしたら刺さるほどの鋭さ。「オニ」の由来もここから来ているのではなかろうか。

 

 

 次にチャンスが訪れたのはそこから30分後の放流タイム直後であった。この釣り堀では1時間に一度、受付の兄ちゃんが奥のイケスからエビを15匹ほど網ですくいあげて池の中に放流する確変イベントが発生する。

 

放流後はエサにスレていない個体が積極的に摂餌するため、得てして魚の活性が上がりやすいものだが、エビにもそれは当てはまるのだろうか……。

 

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うん。釣れた。エビごときの知能に人間様が屈すると思ったか?

 

 

 なお、このころになるとすでに我々のエビ釣り理論は周囲の不断の観察と不定期的に訪れるアタリへの対処(全部バラした)の末に、かなり確立されてきていた。

・餌のタラシを小さくすること

・アワせるときは真上にコンパクトに、しかし鋭くアワせること

・どうせたまにしか当たらないから、待ち時間にはtwitterをいじること

・どこに仕掛けを投入しても当たる確率は変わらないこと

・誘いは無駄

 

つまり、仕掛けを投入した後はおとなしく待つしかないらしいという事だ。

多分この釣りはアワセの上手い下手で決まっちゃう釣りですね。

 

 このあと、1時間延長戦を行って「twitter釣法」で1匹追加したところでタイムアウト。小腹も空いてきていたところだし、釣り堀に併設されているレストランで釣ったエビを調理してもらい、その他にも何品か頼んで早めの夕食をとることにした。

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茹でられると、たしかに淡水のエビっぽい淡い色の出方をする

 デカいエビは火を通せ。種類を問わず、火を通したデカいエビを食べるたびにいつもこれを実感する。(余談だが、イセエビだって火を通した方が美味いと思う)

 

 オニテナガエビも塩茹でされて食卓に上がったが、サーブされたエビを見ると身の縮みが少なく、可食部がデカそうな雰囲気で思わず笑顔になってしまった。殻をむき、いざ食べてみると、デカいエビ特有の強めの「ブリブリ」感が前面に出た身質で本当にうれしくなってしまった。事前情報には釣り堀によっては臭みのあるエビが存在するとのことだったが臭みも無く、例えるならばイセエビの味。デカい頭に味噌もガッツリ入っており、これを日常的に食えるバンコク市民を本気で恨みかけた。

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釣り堀併設のわりにちゃんとしたものが出てくる。レストランだけの利用をする現地人もいた。

 

なお、その後バンコク女子旅の聖地、タラート・ロットファイ・ラチャダー(ラチャダー鉄道市場)にも行った。しかし、完全に観光地化してしまっていた上に現地民の50億倍くらい観光客が来ていて、地元民が主要客層のクロントゥーイ市場的なものを見たかった我々は肩透かしを食らいながら、またも焼いた超デカいオニテナガエビを食って、porn hub のロゴが入っている靴下を買って帰った。

(実は日中ハーフだった同行者は、中国語がやたらと通じるこの市場に「なんでこんなところで中国語話さなきゃいけねーんだよ」と半ギレしながら、中国語で超デカいエビを注文してくれた。)

 

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鉄道市場で食べたオニテナガエビ。25㎝くらいあるデカいやつ。身質もエビ味噌も、イセエビと遜色ないレベル。

ゆっくりと時間が流れる中でまったりと釣り糸を垂れるもよし。

数釣りを狙って本気でやるのもまた一興。

それぞれの楽しみ方で堪能できるエビ釣りはバンコクのアクティビティとしてはかなり優秀なものだと思う。バンコクの観光に飽きたなにか生き物と触れ合いたい夜遊び場が開くまでの時間潰しがしたい、そんなときには是非、エビ釣りをお勧めしたい。

 

 

 それから、中国の皆さんもアメリカザリガニとか言う特定外来生物を有難がって食べてないで、殻が剥きやすくて可食部がデカいオニテナガエビを大量養殖してください。(アレはアレで剥く楽しさはあるし、純粋なエビとは別ベクトルの旨さはあるけど)