Adrenaline Addiction

東京湾のLTアジから小笠原の遠征ジギングまで。

タイで金を払ってバラマンディの出荷の手伝いをしてきた話。 タイ釣行記2

 前回の投稿から4ヶ月が過ぎ、大学生からピカピカの社会人1年生になってしまった。

 

 身分が変わり、週5でナイントゥファイブする社会人になると、あんなにも閉塞していたように感じた学生生活にも、少なくとも「自由」と「無責任」というアイテムだけは一丁前に揃っていたことに気づかされる。

 

 そんな学生時代の出来事を毎晩思い返していると、直近で面白かったのはやはりタイ釣行だったので、悔悟と悲嘆の日々の中、コロナ在宅勤務の余暇を生かしてまた書き連ねてみたい。

 

 

 

2日目。例のデカ魚(うお)釣り堀ブンサムランをボッタクリタクシーのあんちゃんの車で飛び出した(grabが捕まらんかった)我々は、一路mongkol fishing park(以下モンコン)へと向かった。

 

モンコンはスタンダードな当地の釣り堀の一つで、スタンダードな池では主にバラマンディと呼ばれる魚が釣れる。

 

バラマンディはタイでは主に食用として利用されるほか、釣りのターゲットとしても親しまれている、日本でいえばスズキみたいな魚だ。

 

そんな魚が釣れるモンコンであるが、実はメインポンドはあまり釣れない(らしい)。

我々がそんな釣れないメインポンドに行くはずもなく、本当の目当ては「スペシャルポンド」。

受付で大枚はたくと、メインポンドよりもデカい魚が飼育されている養殖池に連れて行ってくれるのだ。

 

こんな裏ルートのようなシステムが存在するのも驚きだが、この裏ルート、とにかく釣れるらしい。しかも、いざ到着してよくよく話を聞いてみると、ガイド?のタイ人が2名ついて、針外しから食事の注文、ビールのパシリまでやってくれるとのこと。

「地獄の沙汰も金次第」とはよく言ったものだが、タイの釣りも間違いなく金次第である。

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そうこうして到着した池で釣りを始めてみる。大きさは50mプールくらい、水深はどうやら1m程度でかなりマッディ(濁っている)。

 

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タイなので「当然」怪しい犬もいる。多分噛まれたら死ぬ。

 

さて、セコイ釣りの国で純粋培養された日本人として、まずはセコいルアー(X-RAP10)を投げてみる。海外の、しかも養殖池なので派手な動きでテンポよく、と思って早めのジャーキングでルアーを横っ飛びさせてみる。

10分ほどの沈黙ののち、「ガチンッ」という感触。一瞬根掛かりかと思ったが、そのままラインが横にスライドしていったので魚、しかも間違いなく本命(バラマンディ以外いないので当然だ)だと確信。ファイトを開始する。

 

カルカッタコンクエストの301というかなり強めのリールを使って、しかもドラグもキッチリ締めていたが、それでもかなりの勢いでラインが放出されていく。しかもボンボンとジャンプする。

 

しかし、昨晩のようにどうにもならない相手でもない。ゆっくり魚の体力を奪うようにファイトすると、案外すぐに魚は上がってきた。サイズは4㎏~5㎏くらいだろうか。

 

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かっこいい~~~



 

 

バラマンディは日本に生息するアカメの近縁種で姿形も酷似している。

しかし、一か所だけ確実に異なる点が存在する。

それは瞳の色。

 

アカメは光を当てると、その名の通り瞳が赤く反射する。

一方、バラマンディは光を当てると瞳が黄色く反射する。

 

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黄色い瞳だ~~~~(写真は一匹目の魚じゃないけど)





例に漏れずこの魚の瞳も鮮やかな黄色を帯びており、バラマンディの瞳の色にしばし陶然としながら(いつかアカメも釣らないといけないなァ)という静かな決意をしていると、タイ人ガイドがグリップであの麗しき魚をつかみ、隣の池の生け簀の中に極めて粗雑に「どぼん」とぶち込んだ。

 

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きわめて粗雑に魚がぶち込まれる、きわめて粗雑な生け簀。

 

キャッチ&リリースしない訳を聞くと、どうやら我々の釣った魚はすべて出荷されるとのことで、「お前らの水揚げ(釣果)に今日の売り上げがかかってるからいっぱい釣れ」ということらしい。

 

なぜかハッパを掛けられた形となった我々は、その後、ありとあらゆるルアーを使って釣り続けた。

 

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まぁ~釣れる

 

 

釣り続けるうちにわかったことだが、どうやら、

・ブローウィン140s

・マリア ザ・ファースト110

のようなシルエットの大きく、強めのウォブンロールでアクションするルアーが良いようで、この2種類に関しては着水と同時にヒット、という事も多々あった。

 

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釣りすぎてガッチャガチャになってしまった。

逆に、巷でアカメキラーとされているエアオグルや、対バラマンディルアーとして有名なルアーたちは釣れることは釣れるものの、サイズが小さいことから丸呑みされるケースが多く、リーダーの消耗が激しくなってしまい、手返しが悪かったように感じる。

 

 

 

しかし、人間どんなに楽しいことでも「飽き」は来る。あんなに楽しみにしていた魚、渇望していた魚を時速10匹以上のペースで釣り続けるという夢のような体験は、あるときから急激に色彩を失い、疲労と辛さを伴う「出荷の手伝い」という単純作業としか感じられなくなるようになってきた。

 

 

単純作業を課せられた人間が長時間の作業に従事する中でどうなるか、もちろん皆さんもご存じだろう。

 

まず怠惰になる。数時間前までは池の周りを縦横無尽に回って釣っていた我々は、ついにプラスチック製のアウトドアチェアに座りながら釣りをすることを覚えた。どこで釣りをしたって、魚の密度はそう変わらないことに気づいたのだ。

 

次に、どうすれば仕事をしないでいいか考えるようになる。これを釣りに当てはめると、「どうすれば魚を釣らないように済むか、適度なペースで釣るか考えるようになる」という事だ。

これが難しい。魚がピュアすぎてどうやっても釣れてしまうのだ。しかし、幾匹との望まぬ戦いの末、「適度に釣れないけど飽きないくらいには釣れる」方法を編み出した。

 

 

それは、トップウォーター系ルアーのステディなスプラッシングー水面を激しく動かし、水柱のような散水を起こして魚の気を引くテクニックーであった。一般的に、日中の魚は水面近くでの捕食行動をあまり起こさない。これは養殖池という温室育ちのバラマンディにおいても例外ではない。つまり、他のルアーのような「反射で捕食する」行動がかなり抑制され、やる気のある個体だけがアタックするようになるのだ。

 

しかもこの魚、釣っているうちに気づいたが、捕食があまりうまくない。ルアーが通った後の航跡(?)に向かってアタックしたり、ルアーにアタックしたものの勢い余ってルアーを吹き飛ばしてしまったりと、壊滅的な下手さである。(その辺、スズキに似てる気がする)

こうした魚に、トップウォーターのゆっくりした動きを見せるとどうなるか。

そもそものアタックの量も減り、捕食が下手だからフッキングも減るのである。

 

これを見つけ出し、その後は時間いっぱいまでなんとか楽しむことに成功した。

 

しかし、この釣りの最大のクライマックスは出荷にあった。

ガイドに釣りを終了する旨を伝えると、遠くの方から軽トラを一回り大きくしたようなトラックが目の前に現れ、覆面かと見まごうようなフェイスカバーをした男が降りてきた。

そして、釣れた魚をキープしていた生け簀の網を手繰って魚を素手でつかみ、1匹ずつ土手の上にぶん投げ始めたのだ。

 

土手の上に積み重ねられ、黄金の瞳から生気が消えていくバラマンディ達。

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・・・・・・

あの時に感じた、自分がこの上なく美しいと思った魚が粗雑に扱われることで抱いた感情は、私に三島由紀夫の「金閣寺」の終盤の記憶を呼び起こさせ、かつて三島の描きたかった「滅びの美」のカタルシスを遠く離れたタイの養殖池でこの時完全に理解した。

金閣寺では主人公は放火という直接的な手段で「美しいもの」を破壊したが、私たちが魚を釣らなければ、バラマンディは死ななかったわけで、その点間接的ではあるものの私たちもまた「美しいもの」を破壊していることになる。)

 

そうこうしていると、生け簀からすべての魚を出し終わった男たちは今度は土手にぶん投げた魚をトラックに積載してある大きなバケツに移し替え始めた。

 

彼らはどれだけの精神的ダメージを初対面の日本人に与えようとしているのだろうか。

 

水揚げの後は出荷。金閣寺の後は「ドナドナ」である。

 

ある晴れた昼さがり 市場へ続く道 荷馬車がゴトゴト 子牛を乗せて行く

可愛い子牛 売られていくよ

 

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ドナドナされていくバラマンディ。



 

「お前ら結構釣ったな!!」みたいなことを言い残して男たちとトラックがどこかに向けて出発した後、再びボッタクリタクシー(いいカモだと思われてるらしく、終了時間と同時に迎えにきやがった)に乗りこみ、次第に熱狂から覚めた我々は、今日の行動を客観的に見ると「日本円で1万ナンボ払ってバラマンディ63匹の出荷の手伝いをした」という倒錯したものであったことに気が付いた。

 

 

2日目 完